弓道を続けていると、突然やってくる「びく」
自分の手なのに制御不能になるのは不思議です。
経験した人も多いはず。
今回は、重症化してしまった「びく」を治した体験談から「びく」の原因と治し方をご紹介します。
びくの原因 なぜ発生するのか
弓道経験者にびくで悩んでいると相談すると
・取懸けが悪い
・右手に力が入りすぎている
・びくは早気の親戚。中てにいく意識が強すぎ
などと言われることが多いですよね。
これ、実は少し誤解があります。
そもそも、弓道を続けていると早気やびくが出るのは医学的に見ると自然な反応です。
弓道の会の状態は身体的な緊張・ストレスが一気に高まっている状態です。
そして、離れるとストレスから解放されます。
的中すれば、ドーパミンが分泌されて爽快感を感じます。
弓道は、ストレス→爽快感までの時間が極端に短い。
ここにビクの原因が潜んでいます。
弓道を続けているうちに、脳はストレス状態を少しでも抑えて爽快感を得ようとします。
脳の神経回路が、会の不快な状態を早く脱出する手段として離れようとしてしまうのです。
離れようとする本能。
「まだだ!」という理性。
びくは、本能を理性で無理やり抑えているのです。
びくの治し方
一番気になるのが、治し方ですよね。
早気の治し方とも共通するのですが、今、びくで悩んでいるあなたは会に拒絶反応が出ている状態です。
今、会が5秒あったとしても同じこと。
理性が上回るから、会があるだけです。
この状態を脱出するには、会→離れという流れを一度断ち切る必要があります。
私も早気・びく・もたれを繰り返した時期がありました。
その苦しい時期を、ある特殊な練習で脱出できました。
まず、巻藁で通常どおり口割りまで下ろします。
口割りに達したらすぐに矢を目の高さくらいまで戻します。
そこで一度呼吸を整えて、再度口割りまで下ろします。
3回ほど下ろす・戻すを繰り返してから離れるようにしてください。
この練習の目的は、脳の記憶の「会→離れ」という回路とは違う動きを行うことです。
重症のびくの場合
びくにも様々な段階があります。
軽度のびくの人。
会でびくが出て、すぐに口割りまで戻って離れることができる人は、先ほどご紹介した練習方法を試すことに抵抗はないでしょう。
しかし、びくが出るようになってから離れが引っかかる・離れられない重症の人は事情が違います。
「綺麗に離れる方法が知りたい」
そう思う人もいるでしょう。
でも、今はグッと我慢してください。
スポーツ医学的に見ると、この状態のときに綺麗に離れようと試行錯誤するのは、イップスを悪化させるだけです。
そもそも弓道は、右手をパーにすれば必ず離れます。
たとえ右手をグーにして握りしめるようなめちゃくちゃな取懸けでも、離れないということは物理的にありえない。
それでも、離れに違和感がつきまとうのは、本能と理性がせめぎ合って、体がうまく動かなくなっているからです。
この状態でまともに練習しても症状は治まりません。
他のスポーツであれば道具を変えたり、ルーティン(手順)を変えることで克服できる場合もあります。
でも弓道はそれができない。
射法八節を決まった動作を必ず行う弓道は、イップスという視点から見るととても厳しい種目です。
ならば、練習のときに流れを変えるしかない。
会→目の高さまで戻すという練習になれてきたら、鼻の高さまで戻したり、頭の上まで戻したり、一射ごとに戻し方を変える方法もオススメです。
ときには射法八節を完全に無視して、無理やり会の状態までもっていく練習をしてもいいでしょう。
(怒られるかもしれないのでコッソリと…)
びくの治療を開始したら、最低2週間は普通の射法八節を行うのは諦めてください。
「そろそろできるかな…」などと言って試射をしてしまうと、効果が全くなくなります。
最低2週間、できれば1ヶ月。
グッと我慢すればその後の苦労が大きく減りますよ。